大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)404号 判決

上告人(原告) 秋山新平

被上告人(被告) 山梨県選挙管理委員会

一、主  文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

二、理  由

上告人秋山新平代理人皆川健夫の上告理由(後記)について。

公職選挙法二〇七条(原判決が二〇三条を適用したのは誤りである)の訴願に対する裁決は、訴願人が裁決書の交付を受けることによつてその効力を生ずると解するのを相当とする。従つて同条一項に定める訴願の裁決に対し不服のある者が高等裁判所に訴訟を提起することのできる三〇日の出訴期間は、告示による場合においても訴願の裁決が効力を生じなければその進行を始めるものではない。同条同項に「第二百十五条の規定による告示の日から三十日以内に」とあるのは、告示は訴願の裁決書が訴願人に交付された後に為されるのを通例とする趣旨をもつて定められたのであつて、たまたま裁決書が訴願人に交付される前に告示が為されたとしても、その告示による出訴期間は訴願人が裁決書の交付を受けた日からその進行を始めるものと解さなければならない。本件においては、上告人は訴願人であるから、その出訴期間はもとより告示によるべきでなく、上告人の訴願棄却の裁決書の交付を受けた日から三〇日以内とすべきである。従つて原審は上告人が訴願裁決書の交付を受けた日を確定し、本訴の適否を判断すべきにかかわらず、出訴期間を告示の日から計算すべきものとして本訴を不適法として却下したのは違法といわなければならない。

すなわち、原判決は公職選挙法二〇七条一項(二〇三条一項と同趣旨の規定である)の解釈を誤つた違法があり、論旨は理由があるものと認め民訴四〇七条により、原判決を破棄し差戻すべきものとし裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告代理人弁護士皆川健夫ノ上告理由

原審ハ法律解釈ヲ誤リタル違法アルモノナリ。

一、上告人ガ訴願裁決書ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ東京高等裁判所ニ出訴シタル処原審ハ上告人ノ右出訴期間ノ始期ハ上告人ガ訴願ノ裁決書交付ノ日ニ非ラズシテ裁決ノ要旨ヲ告示シタル日ガ始期ナリト判断シタルモノニシテ、右ハ明カニ違法ノモノナリ。

二、公職選挙法第二〇三条第一項ニヨル時ハ訴願ニ対スル都道府県ノ選挙管理委員会ノ決定又ハ裁決ニ不服アル者ハ、其ノ決定書若クハ裁決書ノ交付ヲ受ケタル日、又ハ第二一五条ノ規定ニヨル告示ノ日カラ三十日以内ニ高等裁判所ニ提起スルコトガ出来ルト規定サレ居ルモノナリ。

即チ此ノ場合ノ解釈トシテ訴願人ニ対シテノ都道府県ノ選挙管理委員会ハ(以下選管ト略称ス)訴願人ノ住所氏名ヲ知悉スルモノナルヲ以テ、都道府県ノ選管ノ決定シタル決定書若シクハ裁決シタル裁決書ハ必ラズ各訴願人ニ送達又ハ交付セザルベカラザルモノナリ。

而モソノ上更ニソノ要旨ヲ県報ソノ他ノ方法ヲ以テ告示セザルベカラザルモノナルコトハ同法第二〇三条、同法第二一五条ニヨリ明カナリ。

而シテ訴願人ハ右裁決書ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ高等裁判所ニ出訴スベキモノナリ。

換言セバ原則的ニ訴願人(当然裁決書ノ交付ヲ受クベキ者)ノ出訴ハ裁決書交付ノ日ヨリ三十日以内ニ提訴スベキモノナリ。

然レドモ、訴願人ニシテ訴願提出後住所ノ変更、移動又ハ行衛不明等ノ為メ右裁決書ガ事実上交付出来得ザル場合モ考ヘラル、コトヲ考慮シテ、斯ル場合ハ右裁決書ノ交付ヲ俟タズシテ告示ノ日ヨリ出訴期間ヲ計算スベキモノトシタモノナリ。

又裁決書ノ交付ヲ最初ヨリ受ケル事ナキ第三者ニ付イテハ裁決書ノ交付ノ日ハ在リ得ザル事トナルニ因リ告示ノ日ヨリ三十日以内ニ高等裁判所ニ出訴スベキモノナリ。

即チ告示ノ日ヨリ三十日以内ニ出訴スベキ場合ハ原則的ニハ本来裁決書ノ交付ヲ受クル事ナキ者又ハ裁決書ヲ受クル事アルベキ者ニシテ事実上交付不可能ナルモノニ対シテノミ適用サルベキ例外的規定ト謂フベキモノナリ。

三、右解釈ニ付キテハ改正前ノ地方自治法第六六条第四項ノ規定ノ解釈ニ当リテモ、上告人ト同様ノ解釈ガ為サレ来リタルモノナリ。即チ、

1 決定書若クハ裁決書ノ交付ヲ受ケタ者ニ付キテハ交付ヲ受ケタ日ノ翌日ヨリ出訴期間ハ開始サレル

2 決定書若クハ裁決書ノ交付ヲ受ケナイ第三者ニ付キテハ告示ノ日ノ翌日ヨリ出訴期間ハ開始スル

ト解釈サレ来リタルモノナリ。

四、而シテ裁決書ノ交付ノ日ト告示ノ日トガ前後シタル場合ハ如何ニ解釈スベキカニ付キテハ裁決書ノ交付ヲ受クベキ訴願人ニ於テハ、

1 裁決ノ告示ノ日ガ裁決書ノ交付ノ日ヨリ前デアツタ場合ハ裁決書ノ交付ノ日ノ翌日ヨリ出訴期間ハ起算サレル

2 裁決ノ告示ノ日ガ裁決書交付ノ日ヨリ後ニナリタル場合ハ裁決書交付ノ日ノ翌日ヨリ出訴期間ハ起算サレル

ト解釈サレ来リタルモノナリ。

五、元来出訴期間ハ不変期間ニシテ出訴権者ノ出訴期間ヲ制限スルモノナル限リ出訴期間ノ始期ガ充分認識サレタルコトヲ前提トスベキモノナルコト亦斯ク在ラネバナラヌコトハ当然ノコトナリ。

従ツテ訴願人ニ対シテハ法律ニ於テ必ズ裁決書ノ交付ヲ必要条件トシタルモノニシテ此処ニ於テコソ始メテ出訴始期ガ訴願人ニ明確ニ認識サレソノ出訴期間ノ制限ヲ受クルモ止ムヲ得ザルモノト謂ヒ得ルモノナリ。

第三者タル訴願人以外ノ者ニハ裁決書ノ交付ヲ受クルノ機会無之ニ因リ告示ノ日ヨリ出訴期間ノ開始ト定メタルモノニシテ之レ亦当然ト謂フベキモノナリ。

六、然ルニ原審ハ訴願人タル上告人ニ対シ未ダ裁決書ノ交付ガ現実ニ為サレ居ラザルニモ不拘裁決書交付以前ノ告示ノ日ヲ以テ出訴期間ノ始期ト断定シタルハ明カニ違法ト謂フベキモノナリ。

若シ原審ノ如ク解釈サレ得ルナレバ条文ノ(第三〇条第一項)「その決定書若くは裁決書の交付を受けた日」ナル規定ハ意味ナキ空文ニ等シキモノトナルノ結果トナル矛盾アリテ到底原審ノ判断ハ是認スルコト能ハザルモノナリ。

七、従ツテ訴願人タル上告人ハ裁決書ノ交付ヲ受クベキ地位ニ在リ、而モ訴願当時ト住所氏名ニ変更ナキ限リ上告人ノ出訴期間ハ右裁決書ヲ現実ニ交付受ケタル日ノ翌日ヨリ三十日以内ト解釈スベキモノニシテ、告示ノ日ガ何日ナリヤハ問題トナリ得ザルモノナリ。因テ上告人ハ東京高等裁判所ニ出訴シタル昭和廿七年一月十五日ハ裁決書ヲ現実ニ交付受ケタル昭和廿六年十二月十七日ノ翌日ヨリ起算シテ三十日以内ニ該当スルヲ以テ適法ナル訴提起アリタルモノト謂フペキモノナリ。

然ルニ原審ハ法ノ解釈ヲ誤リテ、上告人ノ出訴ヲ以テ期間経過後ノ訴提起ナリトシテ訴ヲ却下シタルハ明カニ法解釈ヲ誤リタル違法ノモノナルヲ以テ破棄サルベキモノト信ンズル次第ナリ。

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